文学賞で地域活性化を目指す「東京中野物語2022文学賞」第1回目の受賞者が発表!
東京中野物語2022文学賞は2020年頃から中野区の町づくりや文化活動にかかわる有志により計画され、日本の各地から上京した多くの若い世代が青春の一時代を過ごす町として知られる中野区から、新たな才能を発掘するきっかけとなればと2022年に実行委員会が発足。「中野を基地として広く作品を募集し、文学のみならず、映像、演劇、アニメにも発展していく題材を見出し、若者の夢を育む町・中野から世界に向けて新たな物語を発信すること」を目的として新設されました。
2022年4月30日~9月15日の期間、年齢やジャンルを問わず、作品テーマも設けず幅広く作品を募集。11歳から96歳まで全国各地から、青春小説、社会派小説、歴史小説など多岐にわたるジャンルの217編の応募があり、その内83編が中野に関係する作品でした。
一次選考で64編、二次選考で8編に絞られた中から最終選考が行われました。また実行委員の選考により、一次選考を通過した中野区賞候補36編から中野区賞を選出しました。
大賞は作家の中島京子さん、佳作は歌手・タレントの中川翔子さん、作家のエージェント会社代表・小説家の鬼塚忠さん、中野区賞は酒井直人中野区長から授与されました。また、当初予定されていなかったものの、最終選考でどうしても「もう1編」と篠原哲雄監督が推した作品に篠原哲雄監督特別賞が授与されました。
同文学賞は今後、隔年での開催を予定。また、今回の受賞作を含む最終選考に残った8編と、中野区賞の最終選考における受賞作と次点の2編を合わせた10編については、電子書籍化と、期間限定での無料配信を予定しています。詳細は公式サイト、公式SNSでのお知らせを予定しています。
■受賞作品/受賞者プロフィール/賞概要/受賞の言葉
『悔いの華 (くいのはな)』原 浩一郎(はら こういちろう)さん(賞金30万円+副賞)
1955年鹿児島県川内市生まれ。立命館大卒。家庭裁判所調査官として勤務したのち、さまざまな職を経て、公立中学校、就労困難者支援団体、刑務所等に勤務。第11回・第13回銀華文学賞(『文芸思潮』アジア文化社)最優秀賞を受賞。2020年「魂の文学・生きる武器としての文学」を掲げ季刊投稿誌『文芸エム』を刊行している。
「読む人の魂を突き動かすような物語を、これからも書いていけるように精進したい」
『鬼祓い桃園神社 (おにばらいももぞのじんじゃ)』菊一 馬絽(きくいち まろ)さん
(賞金5万円+副賞)
中野区在住、会社員。
「生まれ育った中野の街、いっしょに遊んだ友人との思い出が書かせてくれた」
『にゅうらいふ』大塚 雅美(おおつか まさみ)さん(賞金5万円+副賞)
1999年生まれ。高校生の頃、万年筆でノートに日記を書くことから文章を書きはじめる。それ以来、書くことによって自分の体験や心情を言葉にすることが生きがいになっている。文章を書くときの身体感覚、人が語っている時に漏れ出す言葉など、言葉にまつわる身体性をテーマに小説や散文を書いている。
「ノートに綴っていた物語がこのような賞を頂けて嬉しいです」
『始発電車は午前五時(しはつでんしゃはごぜんごじ)』北森 春土(きたもり はると)さん(賞金10万円+副賞)
1955年父母の出身地鹿児島県大島郡にて出生。早稲田大学法学部在学中から学習塾講師。いったん帰郷して量販店、輸入雑貨店に勤務。再度上京後、予備校講師、家庭教師。主に大学受験英語を担当して現在に至る。
「中野で育んできた青春時代だった。今回の受賞は10代の頃から一緒に過ごしてきた仲間たちのおかげ」
『ささやかな音を聴く(ささやかなおとをきく)』高城つかさ(たき つかさ)さん
1998年神奈川県出身、東京育ち。2018年より執筆業をはじめ、2021年より小説を書き始める。
「小説を書き始めてまだ間もないのに、このような賞を頂けて本当に嬉しい」
■中島京子さんによる総評
一次選考・二次選考に関わった方々によると、やはり「中野」の名前を冠した文学賞なので、中野の町に関する小説が多く、なかでも中野ブロードウェイに題材を取ったり、中野を舞台にした青春グラフィティが多かったとのことです。
大賞を受賞した『悔いの華』は刑務官の主人公や、細部の描写が丁寧でリアリティがあり、選考会でも最初から高評価が揺るぎませんでした。タイトルはもう少しキャッチーでも良かったのではと個人的には思っています。
佳作の『鬼祓い桃園神社』はプロの作品と思われるような完成度の高さでしたが、キャラクター設定や物語に既視感を抱くところもあり、最終話が少し弱いように感じました。
佳作の『にゅうらいふ』は人間ならざる者、AIの恋愛を描きながら人の持つ原初的な喜びが感じられる作品でした。性描写が巧みでしたが少し冗長なところも感じられました。
篠原哲雄監督特別賞の『ささやかな音を聴く』は文章がとても良かったのですが、小説としては少々粗が多く、偶然に頼る筋運びが気になりましたが、篠原監督の推しもあり、受賞となりました。
■シンポジウム「文学賞により中野の活性化を」が同時開催
コーディネーターを務めた副実行委員長西田聖志郎さんの司会ものもと、文化活性が町おこし、町づくりにつながっていくのではないかという議論がなされました。本イベントは公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京【芸術文化魅力創出助成】 の対象となっています。
中川翔子さんは、「コロナ禍で閉店してしまったお店や、少子化による統廃合で無くなった学校など、町は変化してしまうけれど、物語などの作品になることで記憶に残る。なくなっていくものの寂しさはありつつも、文章で心の旅ができる。この文学賞をきっかけに中野を描きたいという人が沢山出てきてくれればいいなと思う」と、祖母の代から3代中野に住む中野への愛あふれるコメントをしていました。
実行委員長の佐々木洋文さんは「中野サンプラザの解体、新設など中野の駅前再開発が進む中、建物が新しくなってもそこに文化がないと町としては魅力に欠けるのではないか、という視点から始まった文学賞創設。人々の心に残る作品に登場する町には行きたくなるもの。この文学賞から書籍化、映像化作品が生まれて中野の町の魅力が伝わればいいなと思います」と、文学賞による町おこしへの想いを述べていました。
篠原哲雄さんは、映画化には費用も時間もかかるが、この文学賞をきっかけとして、心の葛藤をリアルに描くような作品が中野から世界に向けて発信できたらと期待を込めて話していました。
■最終選考委員プロフィール
東京都出身。2003年に小説『FUTON』でデビュー。以後『イトウの恋』『ツアー1989』『冠・婚・葬・祭』など次々に作品を発表し、2010年に『小さいおうち』で直木賞を受賞。2014年に『妻が椎茸だったころ』で泉鏡花文学賞、2015年に『かたづの! 』で河合隼雄物語賞、柴田錬三郎賞、歴史時代作家クラブ賞作品賞、および『長いお別れ』で中央公論文芸賞、2020年に『夢見る帝国図書館』で紫式部文学賞、2022年に『ムーンライト・イン』『やさしい猫』で芸術選奨文部科学大臣賞、『やさしい猫』で吉川英治文学賞を受賞。その他に『平成大家族』『エルニーニョ』『東京観光』『眺望絶佳』など著書多数。『小さいおうち』は2014年に山田洋次監督によって映画化されている。初めての一人暮らしの町は中野区。
東京都出身。中野区在住。助監督として森田芳光、金子修介監督作品などに携わる傍ら、自主制作も開始。1989年に8ミリ『RUNNING HIGH』がPFF‘89にて特別賞受賞。1993年に16ミリ『草の上の仕事』が神戸国際インディペンデント映画祭にてグランプリ受賞、劇場公開となる。1996年、山崎まさよしが主演した初長編『月とキャベツ』以降30本以上の映画を撮り続ける。2018年、『花戦さ』で日本アカデミー賞優秀監督賞受賞。近作は2021年公開の『犬部!』。2022年は町の本屋を舞台にした『本を贈る』を初の配信ドラマとして発表し評判を呼ぶ。
東京都中野区出身。2002年に芸能界デビュー。歌手・タレント・声優・女優・イラストレーターとして活動。文化人活動としては書籍『「死ぬんじゃねーぞ!!」いじめられている君はゼッタイ悪くない』発売や、2025年に開催される大阪・関西万博キャラクターデザイン選考委員を務める。
1965年、鹿児島県出身。1997年、海外作家のエージェントである英系資本のイングリッシュエージェンシー・ジャパンに入社。数々の海外作家の日本語書籍の出版に携わる。2001年、自ら作るコンテンツで勝負したいからと日本人作家のエージェント会社であるアップルシード・エージェンシーを設立。多くの作家を発掘・プロデュースし、ベストセラー作家を育てる。自身も9作の小説を書き、『Little DJ』、『カルテット』、『花戦さ』など7作が映画化されている。
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