文化や視点の違いが生み出す作品の豊かさ|メイキングオブ:化け猫あんずちゃんレポート|第11回新千歳空港国際アニメーション映画祭
11月15日からの北米での劇場公開を目前に控えていた今回、英語吹き替え版での予告編を視聴し、トークをスタートしました。
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映画祭での出会いからはじまった物語
近藤プロデューサーは、「私たちが愛してやまないこの映画祭で皆さんに完成作品を披露できるということが本当に嬉しく、感慨深い思いです。また新千歳空港の温泉に入って一杯やりたいです」とMiyu Productionsのエマニュエルさんとピエールさんからのメッセージを読み上げると、会場からの温かい拍手で包まれました。
そのときの出会いについて、久野さんは「エマニュエルさんが初めて声をかけてくれたとき、そのキラキラした目が印象的でした」と当時を懐かしそうに振り返りました。
「ロトスコープ」により制作された本作と共同監督という体制について
実写監督を務めた山下さんは、ロトスコープの手法について事前に説明を受けた上で制作を開始し、芝居や演出に関しては久野さんと綿密に相談しながら進めたと語りました。
アニメーションだけで作られたのは全部3割ぐらいで、それ以外は実写を基にアニメーションが作られていると話し、「極力音声も、実写撮影で収録したものをアニメーションにも使うというのが、この作品の大事なポイントだった」とも近藤さんが明かしました。
さらに制作過程でアニメーションになっていくプロセスが興味深かったと話す山下さん。これに対し、近藤さんから「実写の印象を損なわずに森山さんを猫にするっていうのがとても難しい」と、実際に俳優陣による実写映像とアニメーションの比較映像も見せてもらい解説してくれました。それぞれの実写での素材からアニメーションとして表現する際に作られた、キャラクターデザインも、俳優さんの表情や動き、衣装などもかなり忠実に再現しつつアニメーションとしてデフォルメされている様子に、その紹介では会場から笑い声も起こりました。
久野さんは「アニメーション作家は一生懸命頭の中で動きを考えていく、動かしていく」ものであることと話しつつ、「お芝居のプロが出してくるものの面白さ、環境と役者同士の関わり合いで生まれる偶然性など、頭の中では起きないことがたくさんあって、なんて豊かで大変なことだった」と強調し、その挑戦の過程を明かしました。
これについて、役者の小さなお芝居がきちんとアニメーションとして残っていることを指摘された久野さんは「お芝居が良いからこそ、お芝居が良いからこそ、どうやってアニメらしいメリハリをつけるかというのが難しかった」とロトスコープならではの悩みについても打ち明けました。
日仏合作が見せてくれた豊かさ
今回の日仏分業体制で行われ、日本側で原画・動画といったアニメーションの制作が行われつつ、フランス側では背景美術・色彩設計を手掛けました。
「フランスのスタッフは、作家性が強い方たちが多い印象で、たくさんのアイデアを持ってきてくれた」と久野さん。美術背景を担当するジュリアンさんは、原作を読んで印象派のボナールという作家のイメージを参考として提示してきてくれたと明かします。
まずはジュリアンさんと久野さんで、実写映像から重要そうなカットを選んで、そこから”カラーボード”を作り、日本でレイアウトを、フランスで線画と色をつけていくという役割だったと言います。
「ジュリアンさんたちじゃなきゃ描けないカットがたくさんある」と印象的なシーンを振り返り、文化の違いや宗教的な感覚によるアウトプットの違いが豊かさに繋がったそうです。
「化け猫あんずちゃん」が示す協働による価値
山下さんは、「世界中で上映されるアニメーションのすごさ、アニメの力を感じた。ロトスコープの経験を次に繋げたい」と制作を振り返り自身の思いを述べました。
近藤さんは、「この映画は10年前に僕が企画したんですけども」と、なかなか制作段階に進めることが出来ない中で、原作・シナリオの良さ、試みの面白さを評価して手を上げてくれたのがMiyu Productionsであったことを振り返り、「売り上げがをどうこうではなく、面白い映画を作るためにどうすれば良いかを皆さんで考えた映画だった。何か問題が起きてもみんなで考えられたから面白い映画づくりができたと思う。」と締めくくりました。
本映画祭におけるこれ以上ない国際的なコラボレーションの実現に感謝を込めながら、さらなるアニメーション文化の発展を目指す意欲が高まるトークイベントとなりました。
新千歳空港国際アニメーション映画祭
第11回目の開催となる今年は、2024年11月1日(金)~11月5日(火)の5日間で、国内外の話題作など招待作品の上映はもちろん、多様な未来につながるアニメーションの体験を提供する様々なプログラムを展開します。
今年もゲストと観客が密接に交流できる独自の場を活かし、アニメーションの意義を拡張するような新しい価値を生み出す「遊び場」として、エネルギーを持ち帰ることができる文化交流拠点の創造を目指します。
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